健康栄養学科
小嶋 文博教授
- 専門分野
- 細胞薬理学、食品機能学、有機電気化学
Profile
- 血液型:O型
- 出身地:宮城県仙台市
- 趣味:多趣味(テニス・ミニテニス・タッチテニス・バドミントン・卓球などのラケットスポーツ、オートバイ(スポーツ・ライディング)、車(チューニング)、アマチュア無線(第1級)と無線機・アンテナ調整、ラジオのかけ流し、ロードバイク)
- 子どもの頃の夢:新しい機械を作ること(小学生)、アインシュタインのような科学者(中学・高校生)
- 高校・大学時代の部活動:バレーボール部、アマチュア無線同好会、ワンダーフォーゲル部
- 尊敬する人:アルベルト・アインシュタイン
- 休日の過ごし方:仙台に居る時はテニス、盛岡に帰った時は妻とラケットスポーツ・ウォーキング・トレッキング・映画鑑賞・食べ物屋巡り・お祭り巡り・温泉巡り・ショッピングなど。
- 好きな音楽:昭和歌謡とK-POP
- 好きな映画:ジュラシックパーク・ワールド系、バイオハザード系、キングダム系
- 好きなテレビ:韓国ドラマ(歴史もののほうが多い)
- 好きな著名人:大谷翔平選手
- 好きな食べ物:硬めのご飯・カルビ・鰻・粒あん・ナッツ・ケーキ・チョコレート
- おすすめの本(自著以外):特にこれというのはないです。
クイズ番組とダイオキシンがきっかけ
私が高校二年生の頃、「翼は心につけて」という映画を観ました。この時は心が痛むような思いから医者という職業への興味が湧きました。またこの頃、アインシュタインへの憧れから、理学部にも興味がありました。ところが、たまたまテレビ放送で博士対決のクイズ番組があり、医学博士や薬学博士、理学博士、法学博士など、分野の異なる優秀な博士たちが難しいクイズで対決したのです。高校生だった私はどの博士が勝ち残っていくのか、興味津々で番組を最後まで真剣に見ていました。そして遂に結果が出ました。優勝したのは薬学博士だったのです。この時のこの結果が私の脳裏に焼き付いてしまったのか、私も薬学博士になりたいと思ったのです。進路を決めるには何かちょっと違っているような気はしましたが、私は薬学部に入学し、薬学博士となることができました。
私は薬学部には学部と大学院で計9年間通いました。特に大学院では薬の研究を通して有機化学と電気化学を学びましたが、この頃の私は薬というよりも食品の機能性に興味をもっていました。大学では英語論文、帰宅してからは食の健康機能性に関する本を読みあさっていたと思います。そして就職先を決めるときに受けたのは食品企業のカゴメ株式会社。めでたく合格でき、総合研究所に配属され、薬学部での研究スキルを活かして食品の機能性研究に取り組ませていただきました。その頃、環境ホルモン問題、ダイオキシン問題などが世間を騒がせるようになってきました。ごみ焼却時で発生しやすいダイオキシンを無害化するには800℃以上の高温で燃焼しなければならないと言われ、それまでのごみ焼却場のほとんどは建て替えを余儀なくされたと思います。私はダイオキシンの化学構造を見た時に、これなら簡単に分解できると思いついたので、その思いを実験で確かめたくなり、そのために研究テーマに自由度が大きいと思われる場所、すなわちどこかの大学に移って実験してみるしかないと閃きました。そして丁度タイミングよく求人情報のあったある大学に、カゴメ株式会社を退社して移ることができました。1mgが25万円もするダイオキシン類を何種類か購入するのは大変でしたが、自分の思った通りにダイオキシン類が簡単に分解できることを確かめることができました。その後しばらくして、あれほど騒がれていたダイオキシン問題はいつの間にか世間から静かに消えていったのです。大学教員になったきっかけは、このように単なる思いつきだったかも知れませんが、研究も教育も社会貢献もできる大学教員として現在まで働けていることは大変ありがたいことだと思っています。
認知症を治すのは困難なので、認知症を予防する研究
総合研究所では人々の健康改善・健康維持、疾病予防のために必要な機能性研究を進めていました。検査値で状態や進行が判断しやすい高血圧や糖尿病、脂質異常症(高脂血症)などは、自分の食生活・運動習慣などを時々振り返り、改善すべきところは改善するということを繰り返していけば、高い確率で予防ができると思われます。しかしながら、気づかぬうちに発症し進行していく癌やアルツハイマー型認知症は、悪いくじ引きでも引き当てたようにある日突然兆候が現れる(やっと気づく)ことが多く、しかも歳を重ねれば重ねるほど発症しやすい(誰でも発症する可能性が高い)といった怖さがあります。癌については、手術療法、放射線療法、薬物療法、免疫療法、光免疫療法などの治療法がある程度確立されてきているので、僅かですが安心感があります。しかしながら、認知症は血管性認知症を除くと直接的な治療法はほとんどなく、対症療法的な治療に頼らざるを得ません。すなわち、治せないというのが現状です。治せないものであるならば予防するしかありません。
前置きが長くなりましたが、私が取り組んでいる研究のメインテーマはアルツハイマー型認知症の予防に関するものです。ちなみに総合研究所等では食品の機能性研究の範疇を超えた抗認知症薬の開発に携わることができました。その経験があったからこそ現在まで認知症予防の研究を行うことができています(感謝)。
認知症を4つの種類に分けた場合の血管性認知症以外(アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症・前頭側頭型認知症)には、異常なタンパク質(アミロイドβ・タウタンパク質・レビー小体)や脳の萎縮が関わっていると考えられています。これらのタンパク質を定量することは、この研究を始めた頃は難しかったので、私は脳の神経細胞(ニューロン)が脱落減少しないで元気な状態を保てるように周りで支えているグリア細胞(特にアストログリア細胞)の機能に注目して研究を行ってきました。アストログリア細胞は神経細胞のために様々な機能(働き)を発揮しますが、私は特にアストログリア細胞が分泌するタンパク質(NGF・BDNF・GDNF・NT-3・NT-4/5等)に注目して、それらの分泌を促進するような食品成分やマイクロアルジェの探索を行いました。これらの研究の結果の中で、研究初期に見出したある食品は、私の食生活に欠かせないものとして、すでに20年以上に渡って摂取し続けています。そのためか、私の脳のMRI検査では脳腫瘍、脳出血、脳梗塞などの病変(跡)やアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患もなく、何より脳の萎縮がないということが分かっています。またマイクロアルジェ(微細藻類)を対象とした研究では、ある種のマイクロアルジェにNGFやBDNFの分泌を促進する作用のあることを発見することができ、その研究成果を活かして「健脳サプリUPTEN」(写真)を商品化できました(マイクロアルジェコーポレーション株式会社と共同開発)。
私がテーマとする研究では、細胞レベルで得られた結果を私自身が試すことができているという点がとてもエキサイティングだと思っています。アルツハイマー病による軽度認知障害などの進行抑制のための薬として、抗体医薬であるレカネマブやドナネマブが日本でも承認販売されるようになりましたが、その薬を治療に用いるとなるとかなりの医療費負担が生じるようです。やはり予防するのが一番ですね。
生化学と生化学実験
生化学は、生命現象を分子レベルで理解しようとする学問です。具体的には、細胞内で起こる化学反応(酵素反応)や生体分子(糖質・脂質・タンパク質・核酸など)の構造や機能を学ぶことになります。管理栄養士・栄養士の中心的な学問として栄養学があります。食べた食品中の化学成分が消化・吸収されて、どのような化学変化を受けて、エネルギーに変えられたり、別な物質に作り変えられたり、・・・最終的には排泄されたりしているのかという一連の流れを分子レベルの変化で理解しようとする生化学は栄養学の理解を助けることになります。栄養素の代謝(糖代謝・脂質代謝・アミノ酸代謝)のほか、核酸の代謝についても学びます。核酸といえば、DNAやRNAのことです。DNAの構造とその複製、RNAの合成(転写)とタンパク質の合成(翻訳)などについても生化学では学ぶことになりますが、これらがまた非常に多くの小分子による調節を受けていて、そのメカニズムを知ることはとても楽しいことだと思います。栄養素の代謝をはじめ、私たちの身体の定常状態を保つためにも、あるいは、何らかの敵に襲われ防御機構として免疫が発動する際にも、ホルモンやシグナル分子による細胞の応答メカニズムや細胞間コミュニケーションが複雑に働いています。その複雑なシグナル伝達を追いかけていくと、きちんと理にかなった指揮命令がなされていることが分かり、なるほど!ととても面白くなってきます。こういう面白さがあるのが生化学だと思います。
生化学実験では、講義で学んだことを実験で確かめてみるというのが理想ではありますが、15回という回数では確かめられる数には限りが出てきます。私の生化学実験では、酵素反応のVmaxやKmを求める実験やタンパク質の定量・電気泳動・染色検出法、DNAの抽出・PCR・電気泳動・一塩基多型(SNP)の検出、遺伝子組み換え実験などを行って、分子生物学的な手法を学んでもらうことも目的としています。
生化学の知識は、医療(新薬の開発・病気のメカニズムの理解など)やバイオテクノロジー(食品製造・農業・環境保護など)に広く応用できますし、分子生物学をはじめ、細胞生物学、遺伝学、薬理学など他の多くの生物学的分野と密接に関連しているので、特に研究者志向の学生には本気で取り組んでもらいたいです。
ゼミナールの内容
健康栄養学科では、3年次の開講科目である健康栄養研究法Ⅰ(前期)と健康栄養研究法Ⅱ(後期)をゼミナールとよんでいます。改訂新版世界大百科事典(平凡社)では、「ゼミナールとは、大学などで教師の指導のもとに少数の学生がみずからの発表や討論により主体的に学習を進める形の授業、またその教授方式」と説明されております。私のゼミナール(ゼミ)では、生化学や食品学に関するテーマ、医薬品・漢方薬に関するテーマなどから、私のゼミを選択してきた学生の希望等に合わせて決定していきます。選択されたテーマに関する専門書の輪講や論文紹介などを行い、専門知識を深めつつ、プレゼンテーション技術を身につけてもらいます。専門知識が蓄積されてくると、学生に研究者的視点が芽生えてくるようになり、自分が調べてみたいゼミテーマが見つかるようになります。そのテーマについて、さらに深く掘り下げていくことで、卒業研究テーマへと発展していきます。卒業研究は4年次の履修となりますが、研究そのものは3年次にスタートしている場合もあります。
過去の卒業研究テーマ(各分野3例ずつ)をあげると次のようになります。
(1)生化学関連(培養細胞・ELISA評価系)
○市販かまぼこの神経成長因子産生誘導活性の評価
○ソバ粉の水溶性成分と蛋白質成分の抗肥満作用について
○米ぬかに新たな機能性はあるか
(2)食品学関連
○とろみ調整食品の増粘多糖類に関する研究
○ナノコン添加による米の炊飯特性と食味への影響について
○果実(果実系飲料)の抗酸化活性の測定
(3)医薬品・漢方薬関連(培養細胞・PCR評価系)
○市販の脂肪燃焼系医薬品の効用と有害作用に関する研究
○杞菊地黄丸の新たな機能性に関する研究
○大柴胡湯に肥満予防効果や認知症予防効果は期待できるか
動物実験を行っていた時期もありましたが、今は培養細胞系のみです。研究のための分析法や解析法が常に新しくなってきているので、それらに対応しつつ、特に細胞内のシグナル伝達を中心とした研究テーマを提供したいと考えております。